マリアの弟マーセルの自伝 『三輪車の少年』The Boy on the Tricycle から心に残るトピックを紹介します。
愛らしい春へ(『三輪車の少年』の一節から)
日本は、結局、わたしたちの彷徨の旅の穏やかな間奏曲のようなものとなった。日本の汽船[天草丸]が、これといって変わったところのない夜の航海を経て、わたしたちをウラジオストックから日本の西海岸、敦賀の港まで運んだ。それは、単に一国から隣接する別の国への横断にとどまらず、ある世界から別の世界へ、冷酷な冬から愛らしい春への移行であった――突如、目の前に、桜の花、花柄のキモノを着たかわいい、お人形のような女の子たち。暗闇から出て、日の光のなかへ・・・。(訳:菅野賢治)
マーセル・ウェイランド(Marcel Weyland、ポーランド名マルツェル) 1927年、マリア(Maria)の弟として生まれる。建築家、およびポーランド語で書かれた詩の翻訳家。12歳の少年だった1939年の夏、ナチスの迫害から逃れるため家族と共に故郷を離れ、リトアニアのヴィルニュス(Vilnius)、神戸、上海など住む場所を転々としながらも各地の学校で学び続けた。いわゆる「杉原ビザ」のリストには第861番に父 Michal Wejlandのポーランド名が残されており、マーセルは杉原千畝を「われわれの人生における英雄」と讃えている。自叙伝『三輪車の少年』The Boy on the Tricycle(日本語版未刊行)は、2016年にBrandl & Schlesinger社から出版、日米開戦直前の日本の姿や戦時中に身を寄せた上海での思い出などを描いた。甥のシドニー工科大学教授のアンドリュー・ジャクボヴィチ(Andrew Jakubowicz)は「世界の歴史の中でも最も重要な時期を通じてマーセル・ウェイランドは自分の道を切り開いた」という言葉を自叙伝に寄せている。
ヴェイラント=ヤクボヴィチ家の人々が住んだ、上海・無国籍避難民指定居住区内の家 (2000年、取り壊し直前に甥アンドリュー・ジャクボヴィチが撮影)
マーセル・ウェイランド、82年ぶりの来日なる!!
2023年2月19日~3月1日、マーセル・ウェイランドが、在日オランダ大使館の招きにより82年ぶりに来日し、東京、敦賀、神戸を訪問しました。
東京では、SHIBAURA HOUSEさまの多大なるご協力により、2月28日、渋谷のシアター・イメージフォーラムで「海でなくてどこに Where but into the sea」の上映会とトークショーも実現し、当日の会場は満員御礼となりました。お越しくださった方々、ありがとうございました。
シアター・イメージフォーラムの上映会場でポスターにサインするマーセル
羽田から帰途につくマーセル、大澤未来監督との別れを惜しむ
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